ニュースの概要
株式会社LIFEMが展開する法人向けフェムテックサービス『ルナルナ オフィス』が、東急グループに導入された。10月1日から「月経プログラム」の提供を開始し、婦人科医監修のセミナー動画やオンライン診療との連携を通じて、生理痛やPMSといった女性特有の体調不安の軽減を支援する。あわせて、男性管理職を含む全従業員が女性の健康課題への理解を深める機会にもなる。鉄道・不動産・小売など多角的な事業を抱える大手企業グループでの採用は、フェムテックが一部のIT企業の福利厚生から、人的資本経営・健康経営の標準メニューへと移行しつつあることを示す事例といえる。
引用元: 法人向けフェムテックサービス『ルナルナ オフィス』、東急へ導入(PR TIMES)
分析・見解
福利厚生ではなく生産性対策としての導入
これまでフェムテック(女性の健康課題をテクノロジーで支える分野)の導入企業は、IT・金融など一部の先進企業にとどまっていた。しかし今回の『ルナルナ オフィス』導入の主眼は、福利厚生の拡充というより、生理痛やPMS(月経前症候群)による欠勤や集中力低下、いわゆるプレゼンティーズム(出社はしていても体調不良で本来の力を発揮できない状態)の是正にある。月経にともなう不調による労働損失は年間数千億円規模との試算もあり、企業にとって見過ごせないコスト要因になりつつある。経済産業省がフェムテック等サポートサービス事業として実証を重ねてきたこともあり、月経随伴症状のケアは目新しい福利厚生ではなく、数字で語れる生産性投資として扱われ始めている。
東急という巨大グループが選んだ意味
鉄道・不動産・小売・ホテルなど多様な事業と幅広い年齢層の従業員を抱える東急グループでの採用は象徴的だ。現場職・事務職・管理職が混在し、勤務形態もシフト制から裁量労働まで多岐にわたる。そうした複雑な組織でフェムテックを導入するハードルは、単一事業のIT企業よりも高い。それでも踏み切った背景には、人的資本経営の情報開示が上場企業に求められるようになり、女性活躍の指標や健康経営度調査のスコアが投資家・取引先からの評価に直結し始めたことがある。有価証券報告書における人的資本の開示義務化以降、女性の健康支援は具体的な取り組み事例として記載されやすく、グループ規模が大きいほど開示の説得力が増す。
オンライン診療連携が示す次のフェムテックの形
今回の仕組みで注目すべきは、婦人科医監修のセミナー動画に加え、オンライン診療との連携を組み込んだ点だ。これまでの法人向けフェムテックは啓発コンテンツの提供にとどまりがちだったが、受診という行動そのものを後押しする設計へと進化している。症状について知るだけでなく、診察や処方まで職場からシームレスにつなぐ発想は、産業医面談のオンライン化とも親和性が高く、今後は健康診断データや産業保健サービスとの統合が進む可能性がある。海外では企業保険が受診費用を直接カバーする例もあるが、日本では健康保険制度との兼ね合いから、オンライン診療への動線づくりという形で折り合いをつけている点が特徴的だ。
他業界への波及は規模と業種の壁次第
今後の普及スピードを左右するのは、中小企業への展開コストと、現場労働が中心の業種での運用設計だ。デスクワーク中心の企業では研修動画の配信だけで完結しやすいが、交代勤務や接客業が多い業種では、体調不良時に誰が穴埋めするかという人員配置の仕組みとセットで考える必要がある。東急の事例は好事例になり得るが、単純な模倣ではなく、自社の勤務形態に合わせた設計の読み替えが欠かせない。
ビジネスへの影響
導入判断は健康経営度調査のスコアから逆算する
人事・健康経営の担当者がまず着手すべきは、自社の健康経営度調査やえるぼし・くるみん等の認定で、女性特有の健康課題がどう評価されているかの確認だ。フェムテック導入は単体の福利厚生施策ではなく、これらの開示指標や人的資本レポートに直結する項目として設計し直すと、経営層への説明がしやすくなる。東急のように複数の事業会社を抱えるグループでは、親会社単独の指標だけでなく、主要子会社ごとの健康経営度調査結果も合わせて確認すると、投資判断の精度が上がる。
管理職研修とセットでなければ効果が出にくい
セミナー動画を全従業員に配信するだけでは、相談しにくい職場風土は変わらない。管理職が生理痛やPMSの知識を持ち、業務調整を申し出やすい関係を作れるかが効果を左右する。東急の事例でも管理職の理解促進が明示されており、導入時は人事主導の一斉配信に加えて、管理職向けの個別研修やQ&Aの場を別途設けることが望ましい。特に現場監督者層は体調不良の申告自体に抵抗を感じやすいため、研修では申告のハードルを下げる具体的な声かけ例まで落とし込む必要がある。
投資対効果は欠勤率だけでなく離職防止で測る
効果測定を欠勤日数の増減だけに絞ると、短期的には変化が見えにくい。更年期や妊活も含めた女性特有の健康課題は離職理由の上位に挙がりやすいため、離職率や復職率、エンゲージメント調査のスコアと合わせて中期的に評価する設計が、投資対効果を正しく示す近道になる。更年期症状についても今後プログラムが拡張される可能性が高く、40代後半以降の女性管理職の離職防止という観点からも、早期に効果測定の枠組みを用意しておく価値がある。