ニュースの概要
ウォーカープラスが、フェムテック企業の開発した女性生殖器の模型が、教育や医療の現場で活用され始めていると伝えた。自分の体の仕組みを十分に知らないまま大人になる女性は少なくなく、その背景には日本の学びの環境があるという内容だ。立体の模型なら、子宮や卵巣などの位置関係や大きさを実際に見せられるため、言葉や平面の図では伝わりにくい部分を補える。学校での授業や、診察室での説明といった場面で、理解を助ける道具として関心を集めている。本稿では、この動きを単なる新商品の話としてではなく、体の知識をめぐる社会の仕組みの問題として読み解いていく。
引用元: 画像2 / 5>フェムテック企業発「女性生殖器模型」が教育や医療現場で活躍!自身の体をよく知らない女性…背景にある日本の実情とは?(ウォーカープラス)
分析・見解
見えない臓器を手で触れる形にする意味
子宮は握りこぶしほどの大きさで、骨盤の奥にある。自分の目では見えず、触れて確かめることもできない。そのため多くの人は、体の内側を想像だけで補っている。模型の価値は、その想像を実物に近い形で確かめられる点にある。
手に取れば、子宮と膀胱、直腸の位置関係や、卵管の細さが一目で分かる。月経痛や不妊の話を聞いても、どこで何が起きているのか思い描けなければ、知識は定着しない。平面の図は形を覚える助けにはなるが、奥行きまでは伝えにくい。立体物は、その差を埋める。
学習指導要領と性教育の空白が生んだ知識の差
日本の中学校では、妊娠の経過を取り扱わないとする、いわゆる「はどめ規定」が長く残ってきた。受精の仕組みは習っても、月経の不調、婦人科の受診、避妊の選び方といった暮らしに直結する内容は薄くなりやすい。海外では、北欧を中心に、早い段階から体の仕組みと同意、避妊までを体系的に教える国が多い。日本との差は、授業時間の長さだけでなく、「語ってよい話題」という空気の違いにもある。
その結果、体の知識は家庭や友人、インターネットから断片的に得ることになる。情報の質は人によって大きく違い、誤解を抱えたまま大人になる人も出る。教える側の大人にも十分な知識がなく、説明する言葉が見つからないという事情も重なる。
経済損失の試算が示す、知らないことのコスト
経済産業省は、月経に伴う症状による社会全体の経済損失を、年間約6,800億円と試算している。症状を「我慢するもの」と考えて受診が遅れれば、本人の苦痛だけでなく、仕事の成果にも響く。体の知識の不足は、個人の問題にとどまらず、社会全体の損失になっている。
同じことは更年期の不調や不妊の悩みにも言える。早く気づいて相談できる人と、気づかないまま過ごす人との差は、知識の差から生まれる部分が大きい。職場の理解が進みにくい一因も、共通して説明できる知識が少ないことにある。
模型という入り口が、データ活用の土台になる
フェムテック(=女性の健康課題を技術で解決する分野)は、これまでアプリやウェアラブル端末が中心だった。ただ、体温や周期の記録は、体の仕組みを知っていてこそ意味を読み取れる。模型は、データの前に必要な「共通の言葉」を用意する道具だと言える。
この視点で見ると、模型は医師と患者の会話の質も変える。診察室で臓器を指差しながら話せば、説明の時間が短くなり、患者の納得も深まる。日本では教育現場が慎重になりやすいため、民間企業が教材として提供し、教員や医療者が使いやすい形に整えることが普及の鍵を握る。派手さはないが、市場の裾野を広げる地味で確かな一手である。
ビジネスへの影響
社内研修と福利厚生に取り入れるときの進め方
健康経営(=従業員の健康を経営の投資と捉える考え方)に取り組む企業は、模型を使った研修を小さく試すところから始められる。管理職向けの勉強会で月経や更年期の仕組みを説明すると、制度の必要性への理解が早まる。「休ませる」ことから、「不調の理由を知った上で働き方を整える」ことへ、職場の会話の質が変わる。
費用の面では、模型の購入や貸出に加え、産婦人科医や助産師の講師料が主な項目になる。まず一部署で実施し、研修後の相談件数や、受診のきっかけになった人数をアンケートで確かめるとよい。数字で効果を示せれば、全社展開の説明がしやすくなる。
医療機関と自治体が見直せる説明の場面
医療機関では、初診の説明や検診の案内で模型が役立つ。検査の流れを臓器の位置と合わせて見せれば、不安が和らぎ、受診をためらう人の心理的な壁も下がる。自治体は、中高生向けの出前授業や、子育て世代向けの講座に導入できる。学校だけに任せず、地域の保健師や助産師と組む形が現実的である。
導入前に押さえたい、監修・個人情報・効果測定
第一に、内容を医師や助産師が監修しているかを確認する。形が不正確な模型は、誤解を広げる恐れがある。第二に、参加者に体験や悩みを話すよう強いない配慮が要る。研修では、個人の健康情報を聞き出さない設計にする。第三に、一度の研修で終わらせず、半年後に理解度を測り直す。
フェムテック事業者にとっては、模型を売り切る発想から、教材、講師、相談窓口をまとめて提供する形へ広げることが、継続的な収益と信頼につながる。