ニュースの概要
調査会社のFortune Business Insightsが、フェムテック市場の規模、シェア、成長傾向を2034年までの予測期間でまとめた市場レポートを公開した。フェムテックとは、月経、妊娠や不妊、更年期、骨盤底の健康など、女性特有の健康課題にデジタル技術を当てはめる製品やサービスの総称である。アプリ、ウェアラブル端末、遠隔診療、検査キットなどが含まれ、レポートは製品別、用途別、地域別に市場の伸びを見通している。こうした予測は投資や事業計画の根拠として引用されやすい。そこで本稿では、金額そのものよりも、数字をどう読み、事業や投資の判断にどう結びつけるかという視点から考えたい。
引用元: フェムテック市場規模、シェア、傾向、価値 |成長 [2034](Fortune Business Insights)
分析・見解
市場予測の数字は「定義の広さ」で大きく変わる
フェムテックの市場規模は、調査会社ごとに数倍の開きが出ることがある。理由は単純で、どこまでをフェムテックに含めるかの線引きが統一されていないからだ。月経管理アプリだけを数えるのか、不妊治療の医療サービスや更年期向けの遠隔診療まで入れるのかで、母数が大きく変わる。国内向けの推計でも同様の食い違いは起こりうる。
年平均成長率の予測も、前提となる定義を確認せずに他社の数字と並べると、誤った比較になる。数字そのものより、どの区分が伸びると見ているかを読むほうが役に立つ。
伸びるのは「記録」から「治療・介入」への移行部分
初期のフェムテックは、基礎体温や月経周期を記録するアプリが中心だった。参入しやすく無料で使えるため、競争が激しい。一方で、いま成長の軸になりつつあるのは、不妊治療の支援、更年期症状の遠隔診察、骨盤底筋のトレーニング機器など、医療や治療に近い領域である。
ここは規制対応や臨床データが必要になり、参入は難しい。しかし利用者が継続して支払う理由は明確だ。周期の記録だけなら無料アプリで足りるが、症状の相談や処方まで受けられるなら、月額数千円を払う人は増える。記録アプリが入口、医療サービスが収益源という二層構造に移りつつある。
女性の健康データが持つ研究上の空白と価値
もう一つ見落とせないのが、データの価値である。医学研究は長く男性の被験者を中心に進められてきた。そのため、女性の周期変動や更年期症状に関するデータは薄い。数十万人規模の周期データを持つアプリ事業者は、研究機関や製薬企業にとって貴重な相手になる。周期と睡眠、体温、心拍の関係を示せれば、ウェアラブル(=身につける端末)の価値も上がる。
ただし、妊娠や中絶に関わる情報は極めて機微である。米国では法規制の変化を受け、データ流出への警戒が強まった。データは資産であると同時に最大のリスクでもある。この点は市場予測の数字には表れない。
成長の壁は需要不足ではなく信頼をどう築くか
需要そのものは十分にある。更年期症状による労働損失や、不妊治療と仕事の両立は、企業にとって無視できないコストだ。むしろ壁になるのは、科学的根拠の弱い製品が混在していることと、償還(=公的保険などから費用が支払われる仕組み)の遅れである。
避妊目的のアプリが十分な効果を示せず問題になった例のように、効果の誇張は市場全体の信頼を傷つける。2034年に向けた成長は、承認や臨床試験を通じて信頼を積み上げた企業に偏るだろう。つまり市場拡大は全社が均等に伸びる形ではなく、勝者が絞られる形で進む可能性が高い。
ビジネスへの影響
自社の立ち位置を「入口」か「収益源」かで決める
新規参入や事業拡大を考える企業は、まず記録型の入口サービスを狙うのか、医療に近い収益源を狙うのかを決める必要がある。前者は利用者の獲得に広告費がかかり、無料競争になりやすい。後者は開発期間が長くなるが、継続課金や法人契約につなげやすい。
単独で両方を持つのは難しい。医療機関、製薬会社、ウェアラブル端末メーカーとの提携で補うのが現実的だ。
福利厚生と健康経営の予算を狙った法人向け展開
個人向けアプリは解約も早い。そこで有望なのが、企業の福利厚生や健康経営の予算枠である。更年期症状の相談窓口や、不妊治療と仕事の両立支援は、離職防止という数字で効果を説明しやすい。提供側は、利用率や欠勤日数の変化など、人事担当者が上司に説明できる指標を用意しておきたい。
導入する企業側は、個人の健康情報が人事評価に流れない仕組みを、契約書や社内規程に明記することが欠かせない。
市場レポートを使うときの確認項目
事業計画書に市場予測を載せるなら、三つ確認したい。定義の範囲、地域の内訳、予測の前提となる普及率である。複数社の数字を並べ、最も控えめな値でも採算が合うかを試算するとよい。投資家向けには、市場規模よりも獲得単価と継続率を示したほうが説得力が出る。