ニュースの概要

生理・排卵のトラッキングアプリを手がけるFlo Healthが、インドのFemTech Indiaと組み、女性向けの健康情報を広く届ける「Pass It On Project」を現地で始めると報じられた。Flo HealthはシリーズCの資金調達を経て企業価値10億ドルに達し、世界の月間利用者は8,000万人を超えるとされる。同社は2022年から、十分な医療情報にアクセスしにくい女性を対象に情報提供の活動を進めてきた。今回の提携は、その取り組みをインドの現地団体と一緒に広げる動きである。報道の時点では、具体的な運営の仕組みや目標人数までは詳しく分からない。そのため本稿では、提携が持つ意味を業界の流れから読み解く。

引用元: Flo Health、FemTech Indiaと女性向け健康情報の普及プロジェクトで提携(BioSpectrum Asia)

分析・見解

月間8,000万人の利用者が持つ配信力と信頼

Flo Healthは生理や排卵の記録アプリとして育ち、いまでは月間8,000万人超が使うとされる。シリーズCを経て企業価値は10億ドルに達した。ここまで大きくなると、アプリは単なる記録帳ではなくなる。女性が体の変化について最初に調べる窓口になる。

今回のPass It On Projectは、その窓口をまだ届いていない層へ広げる試みと読める。同社は2022年から、十分な医療情報に触れにくい女性に向けた活動を続けているとされる。インドは、その次の舞台として筋が通っている。人口が多く、スマートフォンの普及も進み、情報の需要と不足が同時に大きい国だからだ。

情報の格差は機能の差より深い壁になる

インドでは、生理について家庭や学校で話しにくい空気がいまも残る。公的な家族健康調査では、若い女性の約8割が衛生的な方法を使うとされる。だが逆にいえば、残る2割ほどは届いておらず、州や所得による差も大きい。知識がなければ、記録アプリを入れても使い道が見えない。

つまり壁は、機能の不足ではなく入口の手前にある。言葉の壁もある。インドには憲法で定められた言語だけで20以上あり、英語中心の説明では届かない。アプリの性能をいくら磨いても、この壁は越えられない。ここを埋めるには、地域の事情を知る人の力が欠かせない。

現地団体と組むことで得られる届け方の工夫

FemTech Indiaは、インドの女性向け技術・健康分野の関係者をつなぐ団体として知られる。海外の大手が単独で乗り込むより、現地の信頼を借りたほうが早い。言葉を訳すだけでなく、どの話題をどの順で伝えるかまで調整できるからだ。

大手のIT企業が各国のNGOと組んで健康情報を配る例は、これまでも多い。共通点は、技術そのものを渡すのではなく、信頼の経路を借りる点にある。今回の提携も、アプリの機能を売り込む場というより、情報の届け方を現地に合わせて作り直す実験として見るべきだろう。

善意の活動と事業の成長をどう両立させるか

月間8,000万人という規模は、強みであると同時に責任でもある。生理周期の記録は極めて私的な情報だ。Flo Healthは過去に、米国でデータの共有方法をめぐり規制当局から指摘を受けた経緯がある。情報普及を掲げて利用者を増やすなら、個人情報の扱いも同じ熱量で説明する必要がある。

啓発が将来の利用者増につながること自体は、悪いことではない。ただし、無料の情報提供と収益化の線引きが見えなければ、信頼は長く続かない。この線引きを示せるかどうかが、プロジェクトの評価を分けるだろう。

ビジネスへの影響

啓発を先に置く発想は日本のフェムテックにも使える

日本のフェムテック企業は、製品の機能説明から入ることが多い。しかし利用者が体の不調や周期について基本を知らなければ、機能の価値は伝わらない。Floの動きは、先に正しい情報を渡し、信頼を作ってから製品を使ってもらう順序の大切さを示している。

自社で情報を出すだけでなく、自治体、学校、企業の健康経営(=従業員の健康を経営の課題として管理する取り組み)の担当部署と組む方法もある。届ける先を増やすほうが、広告費を足すより効果が出やすい場合がある。

海外団体と組む前に確認したい三つの点

第一に、相手が現地でどれだけ信頼されているかである。会員数や発信力だけでなく、実際に女性と接点を持つ活動の実績を見たい。第二に、個人データの扱いだ。インドでは2023年にデジタル個人データ保護法が成立しており、国ごとの規則を事前に確認する必要がある。第三に、成果の測り方である。閲覧数や配布人数だけでなく、受診や相談につながった件数まで追うと、活動の質が見える。

予算が限られる中小企業は、最初から大きな提携を目指さなくてよい。まず一つの地域、一つの言語、一つのテーマで小さく試し、反応を見てから広げるのが現実的である。

社会的な取り組みを成果として示す工夫

企業価値10億ドルに達したFloのように、社会的な活動を事業説明の中に組み込む企業は増えている。投資家や提携先にとっても、活動の目的と数字が明確なほうが判断しやすい。うまくいった点だけでなく、届かなかった層や課題も公開すると、長期的な信頼につながる。

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